2024.05.15

詩文庫『まど・みちお詩集 ぞうさん』のこと

【まどみちおさんの詩「ぞうさん」の話】

 ぞうさん
 ぞうさん
 おはなが ながいのね
  そうよ
  かあさんも ながいのよ
               ―『まど・みちお詩集 ぞうさん』
                          所収詩「ぞうさん」より

 あれ?これって子どもの歌でしょ? 子どもが歌う歌じゃないですか。

 編者はかつて、まどさんにそう尋ねたものでした。するとまどさんのお返事はこうでした。

 「これはね、象の子どもが、森の仲間たち、ライオンや熊やリスたちから
  『やーい、きみの鼻は長くておかしいや』とからかわれたのです。
 すると象の子どもは、そうだよ、ぼくの大好きな母さんの鼻だって長いんだもん、
 といって自分の長い鼻を空にかかげて自慢した。という歌なんです」

 つまりこの歌は、象の子どもが、自分が自分に生まれてきて嬉しい、という「存在の詩」なのですね。

 ぼくたちや子どもたちが、人生の早くに、
 自分はいったい誰だろう?どこから来たのだろう? なんの用事があるのだろう?と悩むとき、
 自分が自分に生まれてきてよかった、と知ることができたらどんなに幸せでしょう!

 この詩はやはり、ただの童謡ではありません。
 あえて歌わず声に出して読んでみれば、深い深い現代詩であることがわかります。

(2013年に編集長の田中がブログに書いた文章を再掲しました)
まど・みちお詩集ぞうさんの本の表紙
まど・みちお詩集 ぞうさん - 童話屋 (dowa-ya.co.jp)