【谷川俊太郎さんとの出会い】
童話屋は、いまは絵本と詩の本をつくる出版社ですが、東京・渋谷に1977年10月に開店した「童話屋書店」がそのはじまりです。
創業者で編集長である田中和雄の文章を以下に紹介します。
詩や絵本に魅せられて童話屋書店を開いたのはぼくが四十歳の頃です。
まっ先に遊びにきたのは谷川俊太郎さん。気をつけの姿勢で「ぼく谷川俊太郎です。この店で詩を読ませてください」とニコニコ笑います。
本屋で詩人が詩を読むなんて、なんと面白いことでしょう。すぐ賛成してその週末から始めました。
谷川さんは終始笑顔で、子どもにも敬語で話しています。五十年たった今も変わりません。
その谷川さんに「ぼくのゆめ」という詩があります。
おおきくなったらなにになりたい?
とおとながきく
いいひとになりたい
と ぼくがこたえる(後略)
ひとの夢なら、えらいひととかおかねもちになりたいという声が出そうなところを、いいひととはナニゴト?この詩の少年は、なんと可愛げのない男の子でしょう。
でも「いいひと」というのは大正解です、そう思いませんか。皆がいいひとなら、世界中の人がみんな笑顔になります。あのプーチンさんだって笑います。
それを谷川さんはサラリと言ってのけ、返す刀で「かっぱかっぱらった」などとことばあそびが口から飛び出てくる、それが谷川さんのスゴイトコロです。
ぼくにとっては茨木のり子さんも、スゴイ詩人のひとりです。
彼女が著した『詩のこころを読む』(岩波ジュニア新書)の「はじめに」にこうあります。
いい詩には、ひとの心を解き放ってくれる力があります。
いい詩はまた、生きとし生けるものへの、
いとおしみの感情をやさしく誘いだしてもくれます。
四十になって疲れて汚れきったぼくの心にもまだきれいな心が残っていて、それが解き放たれるのなら、そのいい詩なるものを読んでみようじゃないか。ぼくはその日から、日本のあらゆる詩を読み始めました。