童話屋から5月29日に発行した絵本『にんげんばかり そばを たべるのは ずるいよ』の舞台は、宮城県の沿岸の町、気仙沼の海と森です。海と森の恵みを受けて暮らす少年・畠山凪(なぎ)くんが小学1年生のときに書いた作文をもとに、気仙沼の自然を愛する叔母の白幡美晴さんが絵を描き、祖父である牡蠣漁師の畠山重篤さんがエッセイを寄せました。
畠山重篤さんは、「海の生きものが元気であるためには、川の上流にある山が豊かでなければならない」ということに気づき、漁師でありながら山に木を植える「森は海の恋人」運動を始めた人です。
第37回となる2025年の植樹祭が6月1日に行われました。
植樹祭の前日は、数メートル歩いただけでずぶ濡れになるほどの強い雨と風が吹き荒れました。こんな天気で植樹できるの?という童話屋スタッフの心配をよそに、重篤さんと長年お仕事をされ、童話屋の本書も担当してくださった編集者の小鮒由起子さんは「大丈夫。今まで植樹祭が雨だったことはないし、きっと晴れますよ」と余裕の笑顔です。重篤さんは4月3日にお亡くなりになりました。今いらっしゃる天国から、植樹祭では晴れるように、今年もきっと何とかしてくれると言うのです。 そして、その通りになりました。植樹祭当日の朝は、まだ傘が必要なくらい降っていましたが、開会式が始まる9時半ごろに雨が弱まり、植樹が始まる10時ごろには雨が上がりました。少し経つと、晴れ間さえ見えてきたのです!
植樹会場は、岩手県一関市室根町の矢越山ひこばえの森。山へゆく道はぬかるんでドロドロでしたが、刈ったばかりと思われる下草を踏みしめて歩いたので、滑って転ぶようなことはありませんでした。 用意していただいた苗木を受け取って、山の斜面に鍬で穴を開け、苗木を植えます。童話屋スタッフの私が植えたのは、「ハクウンボク」と教わったと思います。葉の表面にふわふわの毛が生えていました。大きく育ったら、どんな木になるのだろう。ワクワクします。
今回の植樹祭で植えたのは、23種類、1100本だそうです。 下山するときも、ぬかるんだ道で転ばないように、そろり、そろりと下りました。山から里へ、水がちょろちょろ流れていくのが見えました。山に降った雨が土に浸み込み、小川となって里へ流れ、やがて海へ辿り着く様子が実感できました。山と海の繋がりを私たちにわからせるために重篤さんがわざと前日に雨を降らせたのかもしれません…。
帰路に、重篤さんたちの本拠である気仙沼の舞根湾へ足を運びました。その時間にはすっかり雨が上がり、舞根湾が日の光で輝いてみえました。食事どきには、美味しい海の幸、山の幸もいただきました。全国各地から植樹にいらした皆さんと、楽しくおしゃべりもできました。
海と森の景色、温度、におい、植樹祭に集う人々との楽しい会話、これらは実際に来てみないと味わうことができません。でも、そんな景色と人々の思いを、ギュッと小さな絵本に込めて、全世界のみなさんにお届けできることを、童話屋スタッフとしてとてもうれしく思います。そして、本書を手に取っていただいたみなさんと、次の植樹祭でお会いしたいです。
2025年6月4日 童話屋スタッフK